冷たいコーヒーを家で作るとき、「水出し」にするか「お湯で淹れて氷で冷やす(急冷)」にするかで迷いますよね。この記事では、研究でわかっていることとわかっていないことを分けて書きます。そのうえで、当店の豆ならどう選ぶかまで書きます。
まず結論:時間・道具・保存の早見
| くらべる点 | 水出し | 急冷 |
|---|---|---|
| かかる時間 | 冷蔵庫で8〜10時間(当店の「夜のあいだに。」の場合) | ドリップの数分+冷やす時間 |
| 道具 | ふた付きの容器(麦茶ポットなど) | ドリッパー・ペーパー・サーバー・氷・細口ポット |
| 保存 | 当店の目安は、できあがりから2〜3日以内 | 1杯ずつ作るので、作り置きは前提にしない |
| 向いている人 | 夜に仕込んで、朝は注ぐだけにしたい人 | 飲みたいときにすぐ作りたい人 |
水を1滴ずつ落とす「ダッチコーヒー」も、水で抽出するので水出しのなかまです。
水とお湯で、溶け出すものは違う?
「水出しは酸味が少ない」という説明をよく見かけます。ただ、研究を見るとそう単純ではありません。
Rao と Fuller が2018年に Scientific Reports に出した論文があります。浅煎りの豆6種(ブラジル・エチオピア2地域・コロンビア・ミャンマー・メキシコ)を使い、水出しとホットを比べたものです。pH(酸の強さ)はほぼ同じでした。一方で、滴定酸度(酸性の成分の量)と抗酸化の働きは、ホットのほうが高いという結果でした。
同じ研究グループは、2020年に Foods 誌にも論文を出しています。こちらはコロンビア産の豆1種を浅煎り・中煎り・深煎りの3段階に焼き、水出し(室温の水で7時間)とホットを比べました。結果はこちらも同じで、水出しのほうが酸度・褐色の成分・溶けている成分の濃さ(TDS)が低めでした。
ここから言えるのは「酸がないのではなく、溶け出す成分の量が少なめになりやすい」というところまでです。ただし根拠は同じグループの論文2本だけで、別の研究者による裏づけは今回見つけられませんでした。2018年の論文は浅煎りだけを調べているので、当店の中深煎りでも同じ結果になるかはわかりません。「苦みが少なくまろやか」という説明や、香りの違いを直接調べた研究も見つけられませんでした。
味の違い:当店の水出しの場合
研究ではわからない部分は、当店の商品の説明として書きます。
「夜のあいだに。」は、はじめから水出し用に作った商品です。ブレンドの豆を少し深めに焙煎していて、ブレンド(おかえり。)よりとろみがあり、後味はすっきりしています。味チャートは甘み4・コク4・苦味3・酸味1です。
深めに焼いたのは、私の思うアイスコーヒーらしさを出すためです。深い焙煎香、キレのある苦味、濃く深い味わい。これが理想で、中深煎りでは物足りなく感じました。
同じ豆で水出しと急冷式を作って飲み比べたとき、私は次のように感じました。水出しはコクととろみを感じやすく、苦味はあってもとてもまろやかで、全体に飲みやすい印象です。急冷式は香りと苦味が強くなり、苦味がやや刺激的に感じることもありました。飲み口はすっきりしています。
氷が溶けたあとやぬるくなったあとの味を見るのも、違いをつかむ手がかりになります。考え方は、ホットが冷めていくときの変化と同じです。コーヒーは冷めると味が変わる?40℃まで待つと見える「淹れ方の癖」で書いています。
急冷式の作り方
用意するもの:ドリッパー・ペーパー・サーバー・氷・細口ポット
土台は当店のホットの基準と同じで、湯温85℃、粉とお湯は1:15、蒸らし30秒〜1分、細口ポットで注ぐです。
- サーバーに氷を入れておく
- 氷の上に直接ドリップする
- 氷が溶けて薄まるので、お湯の一部を氷に置き換えるつもりで、ホットより濃いめに落とす
堀口俊英『コーヒー抽出の科学』では、急冷式は濃いめに淹れたコーヒーを氷で一気に冷やす方法で、すぐに温度を下げることで香りが飛ぶのを抑えられる、と説明されています(p.206)。
氷とお湯の割合は、確かな出どころで数字を確かめられなかったので、ここでは書きません。氷が溶けきったあとの味も見ながら、好みの濃さに合わせてみてください。
私が家で急冷式を作るときは、粉をいつもより少し細かめに挽いています。そのほかの分量はふだんと同じで、サーバーには氷を多めに入れます。氷が多いほど、いつものドリップより薄くなると思います。それでも、キンキンに冷やしたほうがアイスコーヒーらしさが出ると考えて、この作り方にしています。
水出しの作り方(麦茶ポットでできる)
用意するもの:ふた付きの容器(麦茶ポットなど)
「夜のあいだに。」の場合の手順です。
- 清潔な容器に水500mlと1パック(40g)を入れる
- 冷蔵庫で8〜10時間おく
- パックを取り出し、2〜3日以内に飲み切る
できあがりは約500mlで、グラス2〜3杯ぶんです。容器はついていないので、家にある麦茶ポットなどを使ってください。
私は、2Lの容器で1.5L作ったことがあります。また、おすすめの作り方どおり、500mlに1パックで作ったこともあります。どちらも8〜10時間おきました。手間が少なく一度にたくさん作れること、味わいが安定することが、水出しの良いところだと思っています。
保存の目安について:家で作ったコーヒーの日持ちについては、公的な基準を見つけられませんでした。参考になるのは、東京都保健医療局の食品安全FAQにあるお茶についての回答です。水出しでも煮出しでも細菌の増え方に大きな差はなく、10℃では48時間たってもほとんど増えなかった一方、37℃では約160万倍に増えたという結果が載っています。大事なのは、容器を清潔に保つこと、冷蔵すること、容器に直接口をつけないこと、短い期間で飲み切ることです。コーヒーについての話ではないので、清潔と冷蔵についての一般的な注意として読んでください。当店の「2〜3日」は、この考え方をもとに決めた当店の方針で、公的な基準ではありません。
どっちを選ぶ?当店の豆で
- 夜に仕込んで、朝は注ぐだけにしたい → 水出しの「夜のあいだに。」(1パック40g・水500mlで約500ml)。夜のあいだに仕込む商品ですが、デカフェではありません
- 飲みたいときに1杯ずつ作りたい → 急冷。ふだんの豆4種(窓辺。は中煎り、午後三時。・おかえり。・おやすみ前。は中深煎り)をそのまま使えます
- 夜、カフェインを控えたいときに冷たい一杯を飲みたい → おやすみ前。(コロンビア デカフェ)を急冷で
焙煎度によって水出しと急冷のどちらが向くかは、今回の論文では調べられていません。ただ、堀口俊英『コーヒー抽出の科学』では、水出しには深煎りの豆をやや細かめに挽いて使うのがよく、浅い焙煎の豆はすすめないとしています(p.208)。「夜のあいだに。」を深めに焼いたのも、同じ方向の考えです。
とにかく手軽さを優先したいなら、インスタントコーヒーとドリップの違いも参考にしてみてください。
「夜のあいだに。」と豆4種は、オンラインショップで買えます。ホットの淹れ方は淹れ方ページにまとめています。
参考にした資料
- Rao NZ, Fuller M (2018) “Acidity and Antioxidant Activity of Cold Brew Coffee”, Scientific Reports 8:16030 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6207714/
- Rao NZ, Fuller M, Grim MD (2020) “Physiochemical Characteristics of Hot and Cold Brew Coffee Chemistry: The Effects of Roast Level and Brewing Temperature on Compound Extraction”, Foods 9(7):902 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7404565/
- 東京都保健医療局 食品安全FAQ(お茶に関する回答) https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/anzen/food_faq/sonota/sonota12
- 堀口俊英『コーヒー抽出の科学』(新星出版社, 2026)p.206・208

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